醸造業界で活躍する方々の「自分のお気に入りの醸造物・それにまつわる思い出」「醸造にかける想い・抱負」等を綴っていただく『いい醸!』。発表いただいた方の紹介により次回のご担当者が決まるため、意外な繋がりも見えるカモ!
 あなたが発表する日も遠くありません。その際はぜひ思いの丈をぶつけてください。

 更新は毎週月曜日・お昼の12時です!


9月 24 2013

東京農業大学
東 和男

 

ご氏名をお願いします

東 和男(ひがし かずお)

 

現在のご所属などは?

東京農業大学 醸造科学科 講師

 

思い出の醸造物 or 好きな醸造物 or 最近はまっている醸造物などを
一品教えてください

醸造にまつわるエピソードを 拙著「発酵と醸造 4巻」(株式会社 光琳)の端書から抜粋し、以下に記載します。

発酵と醸造は、自然の恵みである作物を微生物によって分解・発酵させる農産加工技術である。

醸造に係わる各種工程中に、作物に含有される機能性成分は分解され、可溶化し、人体内での消化吸収性が大きく上昇する。ヒトが作物を食して生存すると同様に、微生物も作物を食して生存し、さらに微生物は醸造物中に多量の発酵生産物を蓄積する。

発酵と醸造は原料である作物の優れた生理活性物質(高次まで可溶化済)と、微生物の豊かな発酵生産物を兼ね備えた高次元の機能性食品である。発酵と醸造は、日本の食文化を担う食品を造り出す。

1.農業と醸造業と工業

平成17年末(昭和80年:戦後60年)、広島県呉市の海事歴史科学館「大和ミュージアム」を訪れた。戦艦「大和」は昭和16年12月、呉海軍工廠(海軍直轄の工場)で最先端技術を結集し極秘裏に建造され始め、昭和20年4月7日、沖縄特攻作戦に向かう途上、米艦載機の攻撃で沈没し、乗員3,332名のうち3,056名が戦死した。しかし、戦艦「大和」の技術は世界一の大型タンカーの建造、自動車・家電製品等の生産に応用され、戦後の日本復興を支えた。海事歴史科学館「大和ミュージアム」は平和の大切さ、科学技術の本質を語る。松本零士氏の「宇宙戦艦ヤマト」では「大和」が人類を救い、宇宙から生還する「地球の船」となる。

呉市は海に面し、三方を山に囲まれた擂鉢状の地形で水田地に乏しく、米を貴重に扱い、呉名物「いが餅」が販売される。「いが餅」とは、表面に貴重な米粒をカラフルに振り掛けた餅で、麹の花が咲いたように美しい。農業は風土・景観を造るが、経済評価が低い。農業と工業の共生が望まれる。

呉駅前で旧海軍御用達のアンパンを購入し、海事歴史科学館「大和ミュージアム」を廻り、呉海軍発祥の肉じゃが醤油を入手した。海と山の間に張り付いた狭小の地、呉市には酒王の千福、呉麦酒、ますやみそ、本むらさき醤油、きぢ醤油等の醸造産業が栄える。海軍工廠の食を支えた醸造業、そして醸造機械を支えた戦艦「大和」の科学技術の縁を感じた。

2.醸造業の思想

暗黒の宇宙に浮かぶ青(海洋)・緑(森林)色した地球の生命は、過去のすべての命と繋がる。遥かかなた100億年後、地球は太陽への吸収合併へと進む。

暗い静寂の夜が明け、明るい朝が来るように、暗い無意識のトンネルの奥を開き、意識ある明るい人生の世界に踏み込む。意識の世界を開くのは、体力・持久力である。醸造業の造りの精神は、単純作業の繰返しの中に、製造原理を見出すことである。蔵内は実験室であり、蔵内に幾ら居ても飽き足らない。

すべてが無と化し、すべてが死すのに、人は何故に生きるのか。人は生き方に決着をつけるために、自分の頭で考え、試行錯誤する。人間は、一人ですべてを決定し、一人で責任をとり、一人で進行することに喜びを見出す。繰り返しで得た蓄積と、統合された感覚・知恵が、蔵内現場での即決、マニュアル以外の即興、図面に縛られない自在の発想を可能とする。もつれた糸を解きほどくかの如き、執着心が養われる。

醸造経営のコックピットの計器盤の数値を捉えるには、筋を通した、醸造技術に長けた判断が要求される。ここにオーナー企業としての価値が存在する。オーナーが自ら決定を下し、醸造業の独自性と特異性が継承される。雇用社員は責任を取れない。株式会社の社長も株主の雇用社員であり、結果がすべてである。オーナーこそが匠の技の後継者である。醸造業のオーナーとて収益を見込み、現金ベースを確認し、継続生産して初めて社会活動となり、生活文化創造事業としての理想が実現される。

中堅の醸造企業は販売力・資金力に乏しく、新製品をヒット商品に育て上げる前に資金切れとなり、後発の食品企業が老舗に化ける。理想の現実化の基盤は、消費者の望む商品を育て上げ、醸造の看板を背負った複合企業体を目指すことにある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家業「東」蔵の外観

 

3.醸造業から新規の発酵産業へ

コンビニもスーパー並に安価で、品揃え豊富となり、さらに生鮮コンビニまでもが顧客を吸引する。

平成15年現在、食品上場企業の総売り上げはトヨタ(21兆円)1社を僅かに上回るに留まり、日本の食品産業の弱小さが知れる。競技人口の少ない醸造業の属する食品業界は、日本の少子化で、大幅な縮小傾向に向う。しかし、科学創造立国の日本はモノ造りで生き残る。人件費の割高な日本でこそニーズに応える高付加価値の醸造・発酵食品の造りが可能である。

近未来はIT(情報技術)を駆使し、ITをエネルギーとした新たな発酵産業が醸造業から生まれる。デジタリアンの「 ロングライフ@net 」のパスワードは「醸造」であり、生活の質と人生の賞味期限が向上する。アップル(コンピューター)はガレージでの発想で開発され、醸造は蔵内で幾多の新規製品を創出した。

4.醸造業と家業

筆者は製パン業に育ち、父は清酒・味噌・醤油醸造元に育ち、製パン業を起こした。父亡き後、無人となった父の生家に時折、訪れる。すでに一部の醸造蔵は老朽化し、平成17年秋、醸造蔵一棟、そして醤油発酵槽を解体した。蔵内の杵搗き臼・挽き臼・看板「胡子屋」は、東京の拙宅に宅配した。

先祖はこの地(父の生家)で帯刀を許され、清酒・味噌・醤油・食酢・はったい粉を造り、屋号「胡子屋」の下、数百年に亘り醸造業を営んだ。庭園に樹齢300年の「多幸の松」が植わり、家業の醸造業を見守った。「多幸の松」の流れる時間の一瞬を心のカメラでフィルムに収め、脳内に銀塩写真のアナログとして描写し、常時、「多幸の松」が脳内に住み込み、脳内スクリーンで遊んでいる。

生家の裏山にNTTドコモ無線基地局の15mアンテナ鉄塔がそびえる。ドコモ基地設置にあたり、平成17年から20年間、NTTと土地貸借契約を結んだ。15mアンテナは無人の醸造蔵を見守る。

筆者は醸造の道で、新たな人間関係が開かれ続け、現在の素晴らしき方々との出会いとなり、感謝する。先祖の導きとも思う。

筆者は家業である醸造業の継承は適わなかったが、現存の条件で有らゆるモノを造り出す醸造の考えを、形ある様式として次代へ継承する。脳に住み込んだ考え方を伝えるには長い時間を要するが、ITと人的繋がりを駆使して継承する。(多幸の松の庭園にて)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(上)樹齢300年の「多幸の松」(手前の這松)
(下)石碑「多幸の松」(家業内の庭園)

 

ご紹介者・岡本様からのメッセージ

御元気でお過ごしですか? 坂井先生、竹田先生、柳田先生の訃報に落胆しています。醸友会出版の「醸す人」に掲載していただきました。何かとお世話になります。これからもよろしくお願いいたします。

 

岡本様へメッセージを!

先日は瀬戸内の採りたての刺身を美味しく頂戴しました。有難う御座居ます。大崎上島へ再訪させて頂きます。お父様・お子様・お孫様、三代続いて東京農業大学へのご入学をお待ちしています。

 

告知などがございましたらお願いします

農大カレッジ講座で醸造の市民講座を開講しています。

座学で発酵醸造食品の造りを、蔵見学で工場に消費者を案内しています。2000名超の受講生をようす人気講座です。

【座学】 みそ・しょうゆ・酢・あま酒・麦汁・納豆・テンペをサクサクつくる

 東京農大エクステンションセンター ホームページ 

 

【蔵見学】 世界でひとつ、オリジナル蔵ツアー

Aクラス(鮭) 『新発田、村上の蔵町ツアー』

新発田、村上の蔵の町を歩き、味噌醤油、酒蔵を訪ね、鮭食の文化を学びます。

 

Bクラス(しょうゆ)  『御殿場でしょう油とお酒ツアー』

御殿場の醤油蔵、酒蔵、ビール醸造所を巡り、しょうゆ諸味を櫂入れします。

 

Cクラス(かんずり) 『雪国上越の発酵食ツアー』

上越で、かんずり、味噌、どぶろく、酒蔵、ワイナリーを訪ね、発酵食を学びます。