前回のPart 3からしばらく経てしまいすみません。著者の個人的な都合で大幅に遅れてしまいました。今回は、清酒酵母のアルコール発酵(その2)として、お話しを続けます。

酵母はなぜアルコールをつくるのでしょう

 酵母は、ぶどう糖を材料に複雑な化学変化をおこして、酸素が少ない状況のときにアルコールをつくるということを前回お話ししました。ところで、酵母はなぜアルコールをつくるのでしょう。
 私たちの筋肉などでも、ぶどう糖が化学変化を受ける経路は途中まで(ピルビン酸まで、「解糖」という)は全く同じであるとお話ししましたネ。筋肉はぶどう糖をなぜ必要とするのでしょう?そう、私たちが運動など筋肉を動かすエネルギー源にするためです。そうなんです。もうお分かりでしょう。酵母でも前回までにお話しした「増殖」するためや「生命を維持するために必要な物質をつくる」ためのエネルギーを得るためなのです。

アルコール発酵はすこぶる低燃費?!
 
エネルギーの量はいろいろな単位で表わすことができますが、カロリー(cal)もその一つです。酵母がアルコール発酵で得るエネルギーは1gのぶどう糖から約80calです。実は、このエネルギー量は非常に効率が低く、少ないから酵母にとっては損なのです。1gのぶどう糖を完全に燃やすと約3,800calの熱が発生するはずだからです。でも、酵母にアルコールをつくってもらうためには、酵母から酸素をシャットアウトしてガマンしてもらうしかないのです(Part 2を参照してください)。
 清酒仕込みでは、わざわざ酸素を遮断する操作は採りませんが、酒母やもろみのような糖が多く粘度の高い状態で、しかも発酵が進んで炭酸ガスが表面を覆う状態では、酵母にとって酸素が不足します。1gのぶどう糖を完全に分解して充分なエネルギーを得るためには、約3.7リットルもの空気(酸素にして0.74リットル)が必要になるからです。それから、この理由ははっきりしませんがぶどう糖の濃度が高くなるほど酵母の酸素消費量が抑えられ、結果としてアルコール発酵へ向かう「クラブトリー効果」と呼ばれる現象があるからです。

もし、酸素が充分に与えられると高燃費に?
 
ところで、酵母に酸素をたくさん与えるとアルコールはほとんどできませんが、酵母は非常に効率よくエネルギーを獲得できることになります。1gのぶどう糖から約1,460calも得られるから高燃費といえます。エネルギー効率は1,460/3,800=0.38、おおよそ38%です。効率よいエンジンなどでも、せいぜい数%なそうですから、バイオ反応のエネルギー効率がいかに高いかお判りいただけると思います。

 また、酵母にとって楽をして高額のサラリーがもらえるようなものですから、短時間でたくさん数を増やすことができます。
 全国の酒蔵に使ってもらっている「きょうかい酵母」の製造では、酵母にたくさん空気を与えて、早く多量に増えてもらうような方法(この方法を好気培養法といいます)を採ります。

エピローグ
 清酒酵母がいかに厳しい条件のもとで、せっせとお酒を造っているかお判りいただけたでしょうか。馥郁としたお酒を口にはこぶとき、けなげな酵母にソッと思いをはせていただければ幸せです。


「Part 1 清酒酵母ってどんな生き物?」はこちらから

「Part 2 清酒酵母ってどんな生き物?」はこちらから

「Part 3 清酒酵母のアルコール発酵(その1)」はこちらから

「Part 5 清酒酵母の系譜調べ」はこちらから


「Part 6 「酵母」という名前の由来」はこちらから


「Part 7 泡なし酵母物語」はこちらから

「Part 8
酵母の変り種−赤い清酒酵母−」はこちらから

「Part 9 酵母はつらいよ!−ストレスとその克服−」はこちらから

「Part10殺し屋酵母」はこちらから

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